リアルワールド

家の塀の、道路に面した側に落書きがされていた。
内容がちょっとおかしかったらしく、念のために警察が呼ばれ近所ではちょっとした騒ぎになった。
私からすると、気がついたら我が家が警察沙汰になっていたという感じで、
当の落書き自体も実物を見ないうちに消されていたのだが。


私自身、その当時は弟に寄生しているみみずに良く似た小虫がもっぱら悩みの種で、
連中は弟の体表面を我が物顔で這い回って脱皮をくり返し、やがて成虫になって新しく卵を男産みつける。
もしや自室で良く見かける小さい蛾は奴らの成虫じゃなかろうとヒヤヒヤしていたのだ。


実際は、被害は落書きだけでは無かった事を知ったのはそれから暫く経ってからのことだった。
被害は外に面した塀だけではなく、家の敷地内の、玄関に精液が残されていたと言うのだ。
「え、玄関って外側の扉とかじゃなくて?」
「うん。玄関の、内側。靴とか並べてある方」
早朝、私だけをこっそり呼び出して事の次第を教えてくれた母がそう言って頷いた。


どうも落書きの内容自体も私を名指ししている疑いの有るものだったそうで、
それも含めて私には意図的に詳しい内容を伏せていたらしい。


自室に戻り付けっぱなしになっているパソコンの前に座る。
ネットで少し前から話題になっていた怪文章のまとめを検索し、閲覧した。
そう言った良くわからない文章がある、という事は以前から知っていたが、
あまり興味を惹かれずに特に動向を追ったりはしていなかったのだ。


そこには他人のブログや自サイトで訳のわからないテキストを
書き散らしていたネット上の怪人物の考察が行われていた。
一時は色々な所を巻き込んだちょっとした『祭』状態となっていたが、既に事態は沈静している。
件の怪人物が現実世界の方でお縄になったのだ。
と、『信頼できる情報筋』からのタレコミがあり、
事実その時期を境にその怪人物のアクションはぷっつりと途切れていた。
紛れも無く、我が家に『落書き』がされていた、その少し後の出来事であった。


どうにも釈然としない、
繋がる断片だけは与えられたが渦中の私は何も知らず知らされず、
何かが起こってそして終わっていた、という感触だけが残った出来事であった。


……という感慨を味わっていた辺りで目が覚めた。